とうに越えて

子供が大きくなったなあ、と感じるひとつが、親の私を今までとは違う感覚で見てくれていると気付くことです。

雨が続いた数日、六人家族の洗濯物が溢れかえっているのに気が付いた長男が、レンタカーを借りてくれたらコインランドリーに運ぶよと言いました。

車のない我が家、めったにレンタカーも借りないのですが、このときは即決しました。

コインランドリーで洗濯物を回して、近くのマックでお昼を食べても、まだまだ車は使えます。

「もったいないね。どっか行く?」

と長男。特に思い当たらないのが出不精の付けのようで、とりあえず

「アウトレットにしようか」

平日の昼間のアウトレットはがらがらで見たいお店もすぐ回ってしまいました。

この春から私服登校の高校に通うことになったボーイッシュな娘が、全く服を持っていないことに気が付いて、彼女のTシャツを長男と選ぶことになりました。

私は子供も服はTPOに外れなければ親の好みではなく、なるべく自分の好きなものを着るべきだと思っているので、本人不在で服を選ぶのが苦手です。長男がなんとなく把握している妹の好みを考えながら、赤に鳥がプリントされた、登山用の有名ブランドのものを一枚買いました。

「赤って平気かな」

と、レジに並んでいるときに、黒ばかりきる娘が思い浮かんで長男に聞きました。

えっ、今更と彼は困惑しながら、それでも少し考えてから

「いや、でも赤のイメージがあったから、奴には。赤、似合うと思うし」

と変えませんでした。

帰宅すると娘もすぐに帰宅したので、お茶の用意をしながらTシャツを渡しました。

「どお?お兄ちゃんと選んだんだけど」

小学生の弟もお茶の席に嬉しそうについたところでした。

娘はもともと不愛想のほうでしたが、この日はとくに不愛想で、差し出されたTシャツを少し眺めると

「ボクは着ないな。ママが着るならどうぞ」

と押し返してきました。

「あれ駄目だった?似合うと思ったんだけどなあ」

のんびり長男が返すのも聞かないうちに、私は怒りが抑えられなくなりました。

「買ってもらったら、まずありがとうだよね。気に入らなければ着なくていいけど、何なのその態度は!」

それから娘が泣くまで怒り続けてしまいました。

深夜、バイトから帰宅した次男に、長男が今日の茶菓子、味なかったわと話していました。

「兄ちゃん、一番きついやん。家族のためにいろいろやったのに、菓子、味がないなんて」

とおかしそうに次男が私を責めるので、

「あれは、彼女が(心に)刺さらないといけないと思ったからあえて母さんは怒りました」

と開き直ると長男が

「刺さったのはあなたでしょ。あなたが刺さったから怒ったんだよね」

とコーヒーを啜りながら静かにいいました。

 

ああ、その通り。

私はいろいろ長男が動いてくれている過程も知っていたし、就活で煮詰まっているのもわかっていたし、娘の心ない言葉にふかく傷ついたのです。

 

自分の気持ちを優先することなく、私の気持ちを読み取る長男は、私の許容をとうに越えて大きくなっていたのでした。