大隈庭園の銀杏
11月14日は埼玉県の県民の日でした。
息子の学校が休校であることをすっかり忘れて、私はインプラント手術の予約をしてしまっていました。
東西線早稲田駅近くの病院であることも、手術が一時間半くらいかかることも小学6年生の息子に話しましたが、僕も行くと言って聞きませんでした。
数日前、彼は、夫から私との離婚の話を聞いていました。私が仕事で不在のときのことで、喫茶店で向かいあってどんな伝われ方をしたのか、ケーキを前にしょげている息子を想像するだけで胸が一杯になりました。みんなが幸せになる選択がほかにあるなら教えてもらいたいと思いながら、息子が大泣きするのをただ頭をなでることしかできませんでした。次の日、彼は学校を休んでしまいました。
病院では私が手術を受けている間、待合室で夫のお古のケータイをいじったり、看護婦さんがつけてくれたテレビを観ていたようでした。
麻酔が効いている間しか彼とあちこち回れないなあ、とかせっかくのお休みなのに病院の付き添いで終わってしまうなあなどと自分を責めていましたが、病院の外に出てみると大学へ向かう学生の波でした。
「そうだ、早稲田に行こうよ」と提案してみました。
「うん、行く!」と意外に元気な答え。
構内の、黄葉がはじまった並木を歩いていると気持ちがだんだん穏やかになっていくのがわかりました。学生たちも元気でにぎやかなのに、そういう喧噪もすうっと吸収していくような深遠な感じが大学にはあるかもしれません。
息子はファミリーマートを見つけるとおでんにはじまりファミチキ二本におにぎりを食べまだまだおなかがすいている、と言います。
仕方がないので大隈庭園のそばにある食堂に移動しました。
その途中で立っていた銀杏の木。
すると
「神様に与えられたその場所で、一生懸命伸びようとしている木を
友達のように思っているっていう詩があるんだよ」
と思い出したように息子が教えてくれました。
修学旅行で行った星野富弘美術館でみた詩だとのこと。
本当の詩はもっと長くて言葉ももっとあったのでしょうが、この詩をこのタイミングで教えてくれたことにとても慰められました。
彼は、食堂でもハムカツやブドウゼリーを食べ大隈庭園を隅々まで走り回って、帰りの電車のなかで
「大隈庭園、楽しかった」
と言いました。
後から調べたら星野富弘さんの「椿」という詩でした。
木は自分で
動きまわることができない
神様に与えられたその場所で
精一杯 枝を張り
許された高さまで
一生懸命伸びようとしている
そんな木を
私は友達のように思っている